最近、西大寺の事について勉強するために読んだ論文の中で、色々勉強になったのが、「南都佛教」第90号所収の近藤有宜氏の論文「創建時西大寺の二宇の金堂」です。　近藤氏は創建時の西大寺に薬師金堂と弥勒金堂の二宇の金堂が造営された事の特異性に着目し、当時の政治情勢や、称徳天皇の信仰の問題…… more などに焦点を当てて検討され、二宇の金堂のうち薬師金堂の建立は、天皇の命や位を危うくする動きを封ずることを目的としたものであり、他方、弥勒金堂は天皇の来世の兜卒天往生を確実にしようとするためのもの、つまり、両金堂は称徳天皇の現世と来世の所願を二つながらに叶える事を目的として造営されたといえると述べられています。　その論考の中で、近藤氏は弥勒金堂に安置されていた水晶製の弥勒菩薩像と金字弥勒経に注目されています。近藤氏は、水晶製の弥勒菩薩像は、像高が一尺七寸の小像であること、水晶という極めて高価な貴石を材とすること、さらに実に豪華な厨子に収められていることなどから、当初は極めて身分の高い貴人の念持仏として制作され、厨子に収められて、その身近に置かれていたが、後に弥勒金堂に厨子ごと移されたと考え、さらに、その貴人とは称徳天皇であり、天皇が生前自らの兜卒天往生を願って、常日頃、祈願の対象としていた像が、天皇が崩じた後、天皇の願いが遂げられるように弥勒金堂に納められたと考えておられます。金字弥勒経については、冒頭に「金字」と記され、さらに割注の最初には「紫紙」と注書きされるので、紫紙に金字で写経された経巻であることがわかり、さらに、この経巻の表紙、あるいは見返しには金銀で絵が描かれ、かつ珠縄の緒が付けられて、経軸には水晶が用いられていたことを示していて、この上ない豪華な経巻であったといえ、この経巻もまた称徳天皇の側近くに置かれて、天皇の兜卒天往生の祈願の際に読誦されていたが、天皇の崩御によって水晶製の弥勒菩薩像とともに弥勒金堂に納められたと考えておられます。これらの称徳天皇の遺品が、おそらく承和十三年(846)に弥勒金堂が焼失した時に失われ、今日に伝わらない事は、とても残念に思います。　 close

【2011 年７月の記事の再録】創建時の西大寺(奈良市)の二宇の金堂