鎌倉時代、暦仁元年(1238)頃、法隆寺の学僧、顕真が上巻を撰し、寛元年間(1243～1246)に下巻を撰したと考えられている「聖徳太子伝私記」は、当時の法隆寺の堂塔、諸尊、法会、末寺にいたる記録の集大成ですが、そこには百萬塔についての記録は載せられていません。　この頃の法隆寺に…… more は百萬塔は無かったと考えた方が自然で、今、法隆寺に現存する百萬塔は、それ以降に、どこか他の寺から運び込まれたと私は思っています。　その候補としては称徳天皇の時代の十大寺で百萬塔が分置されたと寺の縁起に記載されていて、その縁起が成立した頃まで百萬塔が伝来していたと考えられる明日香村の岡寺が有力だと思います。当初、法隆寺では講堂に百萬塔の内の十万基が安置されていたと私は想像しています。天長五年(828)に西大寺の四王堂に安置されていた吉備由利願経が法隆寺に移された記録が正史に有りますが、この時に、それと引き換えに西大寺に百萬塔が移されたと私は推測しています。法隆寺に移された吉備由利願経は百萬塔の代わりに講堂に納められたと思いますが、その後の講堂の火災で、ほとんどが失われたと考えられます。又、西大寺の創建当初の主要堂宇では、当初、百萬塔を安置した小塔院の場所が、鎌倉時代には既に、はっきりしなくなっているのは、この建物が一番最初に火災で失われたためと思われ、その時期を天長五年より以前の近い時期と考えています。　正史には、西大寺から法隆寺への一方通行の記録しか残されていませんが、実は称徳天皇ゆかりの大切な寺宝、百萬塔を火災で失った西大寺が内密に、その代わりを調達するためのトレードではなかったかと想像しています。西大寺に移された百萬塔は小塔院を再建せず吉備由利願経の代わりに四王堂に納められたと考えられますが、貞観二年(860 )　の大火災の時に四王堂と運命を共にして失われたと考えられます。 close

法隆寺(奈良県斑鳩町)の百萬塔の伝来についての推理