百萬塔は称徳天皇の発願で宝亀元年(770)４月26日に完成した事が『続日本紀』に載せられています。称徳天皇が発願した西大寺は、その生前には完成しませんでしたが、百萬塔は、同年の８月４日に崩御される前に完成した事になり、既に病床についていた称徳天皇は、その完成をさぞ喜ばれただろう…… more と思います。百萬塔は十大寺に分置したと『東大寺要録』に記載が有り、法隆寺にも当初は十万基が安置されたと考えられますが、奈良時代、法隆寺のどこに安置されたのかは明らかではありません。只、新たに小塔院を建立した記録は法隆寺に伝わっていないので既存の建物で収容スペースが有ったと考えられる講堂に安置された可能性が高いように思います。　この当初の百萬塔は鎌倉時代には所在が確認出来ないので、私は平安時代に吉備由利願経とトレードで西大寺に移されたと考えています。そして現存する百萬塔は室町時代以降のある時期に称徳天皇の時代の十大寺の一つで、その頃まで百萬塔が無事に安置されていた岡寺から法隆寺に移されたものではないかと思っています。「法隆寺の至宝第５巻」で金子裕之氏が、百萬塔の近世の状況を述べておられますので、節略して紹介させてもらいます。江戸時代の後半には、西院の伽藍や東院の夢殿が「小塔堂」だったらしい。『斑鳩古事便覧』には「今、当寺の夢殿金堂等処々に納むる」とあり、実際に今調査で発見した板材には、百萬塔を固定した痕とともに、中院法印覚勝が享保２年(1717)８月、寺内の百萬塔を夢殿に集めた旨の墨書があり、一部の百萬塔にも同趣旨の墨書がある。また、山内の関係者の記憶では、西院の中門楼上にも相当数があったという。さらに講堂にもいくらかあったようで、講堂の解体修理では百萬塔が一部見つかっている。　こうした数万基の百萬塔は一ヶ所にまとめられ、昭和４、５年頃に大きな木箱に収納、はじめは綱封蔵に、ついで北倉に収納していた。　この記述からは、江戸時代からの変遷しか確認出来ませんが、今から五十年ほど前に元興寺極楽坊が発行した「佛塔」という冊子の、「太秦広隆寺一万塔」一基(石田茂作氏蔵)に次のような解説が有ります。　法隆寺百万塔をまねて室町時代の足利八代将軍義政の発願造立するところと云う。(中略)今は「東山公奉納太秦万塔壱広隆寺印」の紙箋が納められているが、寺伝の如く室町時代の作と認め得るものである。　もし、この言い伝えが正しければ室町時代には法隆寺の現存の百萬塔の存在が確認出来ます。　 close

【2011 年７月の記事の修正】法隆寺(奈良県斑鳩町)の百萬塔について