一休和尚と盲目の美女 ― 酬恩庵 ― - 今日も終日お寺めぐりの詳細

一休和尚と盲目の美女 ― 酬恩庵 ― - 今日も終日お寺めぐり
御朱印(神社・仏閣)
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記事タイトル 一休和尚と盲目の美女 ― 酬恩庵 ― - 今日も終日お寺めぐり
概要

  青年一休は苦悩した。 さとりへの道は果てしなく遠い。寺は堕落している。敬愛する師匠は死んだ。ああもう自分も川の流れに身を投げて死んでしまおう。 それはかのぽくぽくちんの可愛い小坊主とはおよそかけ離れた、純粋で強い仏道の志を抱く若者の姿。 ある日カラスの鳴く声を聞いて禅的悟り…… more を得たという一休和尚。やがて壮年をむかえた一休禅師は、度外れて型破りな、当代きっての風雲僧となります。飲酒、肉食、遊郭通い、僧侶とは思えぬ、奇抜で無法な行為の数数。毀誉褒貶いりまじる風狂の人物でありながら、その学識と才覚は確かなもの、多くの人に慕われ、晩年は大寺院の住職になるなど社会的地位も高く、稀代の傑僧にして、日本仏教史上の高僧の一人であります。 今日はそんな一休和尚にゆかりあるお寺に参詣いたします。 さて、前回の記事で禅定寺参りを終え、無事バスに飛び乗った私は、JR京田辺駅へと戻ってまいりました。一休寺こと酬恩庵はそこから徒歩で十五分。 とんちロードなる緩やかな上り道を真っ直ぐ行けば、酬恩庵の総門前。 門をくぐると、苔と楓の植え込みが上品な境内。その間を通る参道を上ります。新型肺炎が流行って以降、奈良のお寺のお参り続き、このいかにも京都らしいお寺の雰囲気が、とても懐かしい。 拝観受付けを済ませると、すぐ右手には御廟があります。晩年をこのお寺で過ごし、ここでその生涯を終えた一休和尚。その出自は、後小松天皇の落胤、つまりは皇子様。よってその御廟は宮内庁の管轄になっています。 それにしても、いがぐり頭に無精ひげの禅坊主、一休和尚が皇子様だなんて、全然ピンとこないもの。もっとも由あって五歳のときにお寺に入ったために、皇族の間で育ったわけではありません。 御廟の隣が方丈と呼ばれる建築。ここもまた京都でよく見る禅寺らしいしつらえ。枯山水の庭園。狩野探幽筆の襖絵で仕切られた畳敷きの部屋。そして正面奥の室中には、方丈の御本尊として安置される、有名な一休和尚の木彫肖像。 これは一休禅師が亡くなる前年、弟子の墨済に命じて彫らせた御像。ただでさえ写実的なその彫像に、もとは和尚のひげと髪の毛が埋め込まれていたのだそう。 初めてこの御像を拝見したときには、そのすわった目に見つめられ、緊張して、背筋がピンと伸びたものです。ただ者ではないオーラ、木像とはいえ、これは油断ならない。 今日は部屋の中まで入ることができず、廊下から御像を覗き見るかたちに。以前より遠くから眺めますが、相変わらずの厳格なお姿、落ち着き払った聡明なお顔。 私はむしろ、比叡山延暦寺を開いた伝教大師 最澄上人のような、清廉潔白で美しい僧にあこがれます。一休和尚のような、ものすごい人物と向き合うのはコワい。しかしこの御像の前に座ると気が引き締まります。 方丈の三方を囲むのは、石川丈山・松花堂昭乗・佐川田喜六昌俊の合作といわれる江戸初期の枯山水庭園。北庭は枯滝落水を表現した蓬莱庭園、東庭は十六羅漢の庭、南庭はサツキの刈込と白砂の庭。 ひとり縁側に座って庭園を眺める時、とても静かな気持ちになる。わたしは今、空(くう)であると言いたくなる。しかしそろそろカエデも色づき始めた今日、平日とはいえそれなりに人は多い。親子連れもいる。子どもがはしゃぐ。これではとうてい空にはなれない。 少年よ、おとなしくしなさい。一休和尚を見たまえ。あの静かな目を。 とはいうものの、人が多いのもまた、京都のお寺観光の気分を引き立てて良いものです。ぐるり一周庭園をながめ、再び一休和尚の肖像の前に座ります。 その厳しいお姿を見つめる。いや、しかし考えてみると、この御像は和尚が弟子に指示して作らせたもの。彫るほうでも、和尚に対する勝手な印象でつくるわけにはいかない。なんせ下手なことをすれば、一休和尚の喝をくらうに違いありません。 居住まいを正し、うんと厳格で深奥な顔をつくって、「さあ、彫れ。」と弟子に言う一休さん。そんな様子を想像してみると、滑稽で、おかしくなります。 方丈を出て先へ進むと小さな本堂。中に入ることはできず、入口から暗い堂内を覗き込む。奥には釈迦・文殊・普賢の三体の仏像。中央のお釈迦様は、上品で穏やかな美しいお顔。ゆったりと肩をおろしたお姿は、境内の様子に似つかわしい、うっとりするような仏さま。しばし一休禅師のことは忘れて合掌。本堂の脇に建つ宝蔵。中には酬恩庵に由縁ある僧や文化人の書画が並ぶ。一休和尚の書も何点か展示されています。人をくったようなぐねぐねとした文、大胆な書体の掛け軸。少しわざとらしい感じ、でも本当は相当達筆だったことが伺い知れます。ここで私が一番好きなのは、「一休愛用の尺八」という小さな尺八。いがぐり頭、無精ひげの一休さんが、その尺八をフィーフィー鳴らす様は滑稽です。横には木彫りの小さなしゃれこうべ。新年を迎え、祝賀ムードの正月の町中を、杖の頭にしゃれこうべをつけ 「きをつけろー、きをつけろー」 といって歩いて回ったんだとか。 宝蔵を出てさらに進むと開山堂。中には鎌倉時代の禅の高僧 大応国師の御像があります。このお寺の前身となる妙勝寺を開いたお方です。 のちに妙勝寺は戦火によって荒廃。室町時代、国師の遺風を慕った一休和尚が再興し、師の恩に酬いるということで酬恩庵と命名したのだそう。 大応国師の御像は、おおらかで、骨格の太い、いかにも人柄がよさそうな御姿。こういう人物を慕うところに、破天荒にみえる一休和尚の、仏道への純粋なこころが表れているように感じます。境内経路の途中には立て看板。一休和尚が詠んだ歌が書かれます。有漏路(うろじ)より 無漏路(むろじ)に帰る 一休み  風ふかば吹け 雨ふらば降れ漏とは煩悩のこと。この人生は、煩悩にまみれた世界から、煩悩のない涅槃へと帰る、道の途中の一休み。風よ吹くなら吹けばいい。雨も降るなら降ればいい。 一休という道号は、この歌を聞いた師匠の華叟宗曇(かそうそうどん)から与えられた名。退廃した社会への反骨精神を貫き、精力的に活動した一休和尚の生涯。 森待者(しんじしゃ)という盲目の女性に恋をしたのは齢77の時でした。大阪の住吉で出会った二人。和尚は、40歳ほども年若きその女性と、酬恩庵で一緒に暮らしました。 81才の時には、大徳寺という京都の大寺院の住職に抜擢されます。応仁の乱の戦火で焼失した寺の再興が、人望あり交友の広い一休和尚に託されたのです。地位や名誉、権力といったものを終生嫌った和尚は、大徳寺に住むことはせず、遠く離れた酬恩庵から通ったのだといいます。 享年88才。その最後の時まで、酬恩庵のつつましい庵で、美しい盲目の森待者と暮らしました。そして彼女を愛おしむ歌をたくさん残しました。 禅の道に通達した一休禅師。その臨終の際には、「死にとうない」とこぼしたのだそう。  閉門時間も間近となり、人影もまばらになりました。夕刻の冷たい風が肌寒い。ひょっとすると今年の秋、こういう京都らしいお寺にお参りするのはこれで最後かもしれない。門まで来てふとそう思い、振り返って、参道の景色をしばらく眺めました。赤く染まり始めた楓の葉に光が当たっています。それを一所懸命スマートフォンで撮ろうとするおじさんがいます。それはどこか静かで、秋の夕暮れらしい光景でした。 ― 今日の一冊 ― 別冊太陽233 一休 (別冊太陽 日本のこころ 233) 発売日: 2015/10/22 メディア: ムック     close

一休和尚と盲目の美女 ― 酬恩庵 ― - 今日も終日お寺めぐり
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投稿日時 2020-11-01 01:41:00

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