奈良県山添村峯寺の六所神社（ろくしょじんじゃ）は、山添村役場から西へ６㎞ほどの、静かな山里に鎮座しています。かつては六柱神社と称していましたが、「六柱神社」にしろ「六所神社」にしろ、固有名詞ではなく、日本各地に見られる名称です。そして祭神も由緒も不明とされていました。現在は「大山…… more 祇命」あるいは「饒速日命 天忍穂耳命 天津彦根命 天穂日命 熊野忍踏命 熊野忍隅命」などと複数の説があるようです。このお社は、延喜式における『天乃石吸神社』であるとされます。「あめのいわすい」とは、なんとも不思議な名前ですね。その名の由来は、これのようです。拝殿の後方にある巨石の上に、小さくとも美しい春日造の本殿があります。「石の上に据（す）える」⇒「石スエ」＝「石吸」となったと言われているのです。そして土台の岩は、単に都合の良い土台なのではなく、元々は神が降臨したご神体であったようです。その信仰を大切に引き継ぐかたちで、後世に本殿を岩の上に据えたわけですね。　　☆奈良の大神神社には、今も本殿がありません。背後の三輪山自体がご神体であることはよく知られています。古くは、秀麗な山や巨岩や大木などの自然物が直接祀られていました。たとえばこの島々にいた古代人たちは、地面に顔を出した岩の露頭ひとつにも底つ磐根の大きさをおもい、奇異を感じた。畏れを覚えればすぐ、そのまわりを清め、みだりに足を踏み入れてけがさぬようにした。それが神道だった。むろん社殿は必要としない。　　　　　　　　【司馬遼太郎『このくにのかたち』より】しかし、自然物に神が依り来るという原始信仰と、立派な社殿の神社信仰の間には、かなり断絶感があります。いきなり変化したわけではないはずなのです。磐座の上の祠・社殿は、その間を埋める、いわばミッシングリンクの一つとして私は理解しています。そして巨大な磐座の上の祠という形態は、境内社や摂社などとして、国内にまだまだたくさん残っていました。例えば、先日記事にした大阪府高槻市の諏訪神社。香川県三豊市の大水上神社境内、千五百皇子社。香川県三豊市の賀茂神社。島根県雲南市の坂本神社。岡山県倉敷市の真宮神社。愛媛県大洲市の粟島神社。　　☆「六所」という神社名は、六柱の神を祀る事からきています。しかし柳田国男の著作の中には、個々の氏族が、おのおの単一の祖神のみを祭っていた時代というフレーズがあります。どうも境内に多くの神を祭るのは、「合祀政策」を別にしても、けっこう時代が新しいようです。となると、本来の祭神は大山祇命のみだったかもしれません。ただ、原始信仰の時代には、個別の神の差異はあまり重要ではなかった可能性があります。大山祇命という神名すら後付けで、元々は磐座に依り来る原始の神だったかも・・・いずれにしろ、磐座の上の本殿というのタイプのお社は、日本の神社史を考える上でたいへん貴重なものだと思います。普通は、ご神体の鏡や玉や神像等に対して、手をふれるどころか見る事さえできません。ところが、かつてのご神体であった磐座なら、多くの場合手で触れて感触やパワー？を味わう事ができます。日本の古代信仰という視点からは、千年・二千年の伝統を今に伝える、たいへんありがたい様式なのかもしれませんね。四苦八苦のネタ探しですが、三つクリックしていただくと元気が出ますので、よろしくお願いいたします(^_^)/~にほんブログ村神社・仏閣ランキング close

六所神社（山添村）・ 石吸という奇妙な言葉