ヤッホーくんのこのブログ、次の日付の日記をお読みください：★　2021年03月02日「東村山のパワースポット」★　2020年10月12日「明智光秀が京の町娘、駒と会う」★　2020年10月10日「歴史に名高い新田義貞」★　2020年10月08日「南北朝期の武将、新田義貞が八国山…… more 緑地を通る鎌倉街道へ」　この他にもこの「八国山緑地」をヤッホーくん、歩いています。　山から下りる途中、病院の脇を通っていましたが、その病院の由来までは分かりませんでしたが、今日はそれを話題に取り上げたいと思います。となりのトトロ - 井上あずみhttps://www.youtube.com/watch?v=yXD_BJWSkGc「精密機械修理工場」－保生園開設－　東村山にある結核予防会の「新山手病院」は、かつては「東洋一の規模のサナトリウム」といわれた。　病院の前庭に建つ由来を記した碑には、第一生命の矢野恒太の浄財をもとに、1939（昭和14）年に「保生園」（現在の新山手病院）が開園したとある。　当時は肺病（結核）は嫌われもの。　付近の住民には、「精密機械の修理工場を建てる」と説明した。　なるほど、人間ほど精密な機械はない（笑）。　住民感情を和らげようと苦心した事務長は、贈賄容疑で留置場入りの憂き目に遭っている。　疾病史の一つのエピソードといえよう（写真1）。　平安時代の833年、新山手の裏山の向こう側に武蔵の国の「悲田処」が置かれている。　病院と福祉施設を兼ねた、わが国初の画期的な発想だった。　新山手のお隣には「白十字病院」があり、かつての院長・野村実はアフリカでシュバイツァーの手助けをしたことで知られる。　また、ハンセン病の療養所「多磨全生園」もあって、古来より東村山は病者を癒す地とされている。「保生園」は多摩丘陵の斜面に建っているため、景観が表情豊かであった。　国木田独歩の武蔵野を思わせる情感にあふれ、一世を風靡した映画「愛染かつら」など多くのロケの舞台になった。　ただ、肺活量のない患者が長い廊下を登っていくのはきつくて、心臓破りの丘とおそれられた（写真2）。　自然豊かな一帯には、1986（昭和61）年で273種もの野草が見つかり、日本の野草の約30％を数えた。「保生園」は当初より亡国病であった結核との闘いの先頭に立った。　全国から患者が押し寄せ、ベッドのあくのを待った。　さながら野戦病院の趣だ。　医師や看護婦などの研修や見学も絶えない。　戦争中は空襲があると防空壕に患者を担いで逃げ、たきぎでお湯を沸かして消毒し、弾の降ってくる中で手術をした。「保生園」は医者も看護婦もマスクをしておらず、非常に驚かれた。　1959（昭和34）年頃には、外科手術をした患者のリハビリ法を「保生園」独自で編み出し、映画「再起への道 ― 肺機能訓練法」にまとめた。　NHKで「今日の医学 ― 肺手術後の機能訓練」として放送。　先進的な療法として、他施設からの見学者が押し寄せた。　近年このフィルムは複十字病院がDVDに焼きなおしている（写真3）。　1971（昭和46）年、「保生園」から「保生園病院」に改名。　療養所から病院への転換を意味する。　一時は慢性的な赤字で廃院も取りざたされたが、1989平成元）年には「新山手病院」に改まり、赤字から黒字へと劇的な再建を成し遂げる。「天国街道」－患者の闘病の日々－　病棟は男子が高尾、筑波、秩父寮など山、女子は墨田、相模、長良寮など川の名にした。　委託寮はNHKが「放送寮」、国際電電が「国際寮」などと命名。　当初、男女は厳しく分けられ、女子寮に入れる男は院長回診だけだった。　レントゲンをとるときには胸におしろいをはたく年頃の娘もいた（写真4）。　昭和も20年（1945年）など患者の死亡率は何と42％。　2人に1人は生きて帰れなかったのだ。　薬はなく、「大気、安静、栄養」で治そうというのだ。　女子は病気が進んでからしか入院させてもらえないことも多く、死亡率は男子の倍だった。　不幸の転帰をたどり霊安室に運ばれる際には、天国街道と呼ばれた急な小道を上る。「入院は正門から、退院は裏門から」の意味は、霊安室からの下り坂は正門を通らないで外に出られたからだ。　亡くなった患者のホルマリン漬けの肺の標本を見る機会があったが、大半は10～20代だった。　女性患者の結婚・妊娠・出産は危険を伴った。「君を生かしておきたいから別れる」と敢えて去る男もいた。　患者の夫の句、「子が欲しい　告げる乳房に　月あかり」は背景がわかると胸を打つ。　1948（昭和23）年の肺切除手術の第1号の中村礼子。　背中と胸の手術痕で銭湯に行けない。　家を建てたとき一番豪華にしたのが風呂場だ。　療養は何年、時には数十年に及び、10代で入院したまま病院で一生を終える人も少なくなかった。　今日の病院と違って、療養所が生活の場であった。　床屋もパーマもあった。　ダンスパーティやレコードコンサート、盆踊りや文化祭、チェーホフの『桜の園』やゴーリキーの『どん底』の上演など、すべて患者たちの手づくりだった。　句会「七曜会」には高名な俳人・石田波郷が指導に来た。　若いインテリ層の患者が多く、文化的な香りが漂っていた。　幾多のロマンスも花開い（写真5）。　歩ける者は東京と埼玉の県境になる裏山の尾根を散歩した。　5の日には田んぼの向こうの水天宮の出店まで足を伸ばす。　安静時間には脱柵して西武園の競輪に通い、9時の消灯後は赤ちょうちんに通うつわものもいた。　歩いて約20分の東村山駅前まで出て、シャバの匂いをかぐこともあった。　患者にとって悲願は社会復帰。　運良く快方に向かう者は、作業療法で手に職をつける。　ガリ版切り、園芸、簿記、ミシン踏み、シイタケ栽培――。　病棟から「十坪」や「外気舎」といわれた小さな一戸建てに移って、炊事・洗濯・掃除など自分でやって家庭生活の慣らしをする（写真6、7）。　患者同士は結核との闘いの戦友意識が強く、1946（昭和21）年には早くも患者会「保友会」が結成される。　機関誌「魔の山」第1号には、驚くべきことにGHQの検閲済みのスタンプが押されている。　文集「青空」を発行。　1955（昭和30）年には、退院した患者の会「保生会」が結成される。　退院者の会は日本はおろか世界でも珍しいと言われ、新聞や週刊誌で話題になっている。　退院者6,000人の名簿が整備されていたが、今は約1,000人に減った。　入院患者には有名人も多かった。　藤沢周平もそうだ。　玉音放送に使われたレコード盤を命を張って軍部から守り通し、天皇のマッカーサーとの歴史的な会見につき従った筧素彦。　保健同人社の岡本正は自分の葬式の会葬御礼を自分で書き、「死者が書いた会葬御礼」とマスコミをにぎわした。　在日の全鎮植は肝臓癌を病んだ際、「病院選びは大事の大事、再び母の懐にこの身をゆだねる」とあえて保生園で手術・加療し力尽きた。　金日成から花輪が届いた。　全は病院から帰るときは「行ってまいります」、病院に来るときは「ただいま」と言った。　死が間近にある闘病生活を何年も経験した患者たちは、腹が据わっていた。「トトロ病院」－未来の新山手病院へ－　宮崎駿監督のアニメ『となりのトトロ』をご存じだろうか。　メイちゃんのお母さんが結核を患って昔の学校の校舎のような長い木造の病舎に入院するが、あれが「保生園」である。　メイちゃんのおうちは「保生園」の医師の宿舎をモデルにした。　裏山は「八国山」というが、アニメでは「七国山病院」となっている。　東村山というと、志村けんのイメージが強く「えっ、東村山っていう地名は実在するんですか」と驚かれるたびに、ゲンナリしたものだ（笑）。　今では、「トトロのふるさとで～す」というと、またまた驚きの声を上げられるが、これは好感度抜群の驚きで当方も楽しい。　夕方ともなると、東村山の空にはネコバスが行きかう～～　われわれ「新山手病院」の退院者は、死地から救い出し、再び生を与えてくれたこの病院を「マザーホスピタル」と呼び習わしてきた。「悲田処」のあったこの地に建つこの病院が、この先の未来にも「マザーホスピタル」と敬愛され続けることを願ってやまない。結核予防会・複十字 No.333、2010年5月号「東京都東村山市」－東村山、トトロ病院のある丘－（保生会会長　大場 昇）https://www.jatahq.org/pdf/headquarters/document/tb-archive/333.pdf close

トトロ病院